プロペシアには薄毛を防ぐという効果の副作用として、精子の減少や胎児の遺伝子の悪影響などがあります。夫や彼氏プロペシアを飲んでいるのですが大丈夫でしょうかという奥さんやパートナーからの相談もとても多くいただきます。
そこで今回は男性不妊をテーマに子作りや胎児に与える影響についてまとめてみました。
プロペシア(フィナステリド)は精子への悪影響がある
プロペシア(フィナステリド)は、もともと前立腺肥大症の薬剤として開発されてきました。現在はAGAに効果がある男性型脱毛症用の育毛剤として広く処方されていますが、精子への悪影響が懸念される報告が最近かなり多く見られるようになりました。
精子への悪影響があるという根拠のデーター
最近の研究では精子や胎児・妊活への悪影響を実証するデーターが発表されています。下記の論文は、プロペシアが不妊症男性の精子(精液)に悪影響を及ぼすのみならず、精子のDNAにダメージを与えることを示したものです。
乏精子症のため人工授精を行っていた男性の精子がプロペシア使用後ゼロになり(精液も少なくなり)、プロペシアを中止してから精子も精液も復活。(Fertil Steril 2011; 95: 1786.e9-11.)
症例報告2:4回の流産および化学流産を繰り返した妻(37歳)の夫(48歳)の精液所見は正常でしたが、30%の精子にDNAダメージ(DFI法)があることが発覚。使用していたプロペシアを中止したところ、3ヶ月でDFIが21%、16.5%と回復。(Fertil Steril 2011; 95: 2125.e13-14.)
表1:年のプロペシア(フィナステリド1 mg)を1(%)についての薬物関連有害事象
男性型脱毛症
プロペシア N = 945 |
プラセボ N = 934 |
|
リビドーの減少 | 1.8 | 1.3 |
勃起不全 | 1.3 | 0.7 |
射精障害(射精 容積の減少 ) |
1.2 (0.8) |
0.7 (0.4) |
薬物関連の性的不利な経験による中止 | 1.2 | 0.9 |
プロペシアの精子へのダメージの理由をわかりやすく説明すると
日本人の約30%の男性が男性型脱毛症(AGA)です。この男性型脱毛症を抑止するためにプロペシアを飲んで5α-還元酵素II型(テストステロン:T→ジヒドロテストステロン:DHT)という男性ホルモンを阻害します。
ところがこのDHTは精巣の精子形成に影響することがラットの実験で知られています。つまりDHTを減少させるということは精子を作り出す能力を大きく低下させてしまうのです。
また、プロペシアは前立腺も抑制するため、前立腺で作られる精液も減少します。つまりダブルで精子の製造工場の稼働を大幅に下げることになります。
ところが泌尿器科学会の指針では、育毛剤が精子に与える悪影響はないとされてきましたから、特別な警告は今までなされてきませんでした。(学会は結構信用できないので・・・)
育毛剤(プロペシア)が精子のDNAにダメージを与えたり、無精子症のレベルまで悪化させることから、プロペシアを使用している場合は子作りや妊活する半年位前には使用を中止することがベーターといえます。
プロペシアの副作用は継続する
平均28ヶ月のフィナステリド服用後、投与中止後の副作用は平均40ヶ月持続しました(調査時点までのため、もっと長い可能性あり)。(J Sex Med 2011)
無精子状態を回復するために男性ホルモン剤は飲んではいけない。
プロペシアの服用によってDHTが低下し、精子の製造力がさがった。それを男性ホルモン剤とフィナステリドやデュタステリドは同じ様な作用の仕方ではないかと推察します。男性ホルモン剤を使用した後の無精子症は可逆的で、男性ホルモン中止後半年で65%の方は精子形成が復活しています(2014.3.25「☆妊娠を目指す男性に男性ホルモンはいけません!」)ので、フィナステリドやデュタステリドにおいても半年程度様子をみて頂くのがよいかと思います。なお、現在のところ、PFSの有効な治療法は明らかとなっていません。
プロペシアを子作りの期間だけやめるというのは有効なのか
Q1 20代男性、薄毛に悩んでおり、以前プロペシア(1mg/日)を1年間程服用しました。服用前の血液検査等でプロペシアが効きやすい体質とのことでした。家系的にみてもそうだと思います。副作用等は実感がなかったのですが、男性不妊等の情報が気になり、1年程で服用をやめ、それから現在までの1年間はノコギリヤシのサプリメントをのんでいます。しかし、やはり薄毛は徐々に進行しているみたいで、プロペシアの服用を再検討しており、将来結婚して子作りの期間だけ服用をやめれば・・・と考えていたのですが、ポストフィナステリド症候群についての情報が気になってます。ポストフィナステリド症候群について先生の意見を御伺いしたいです。また薄毛や皮脂、加齢臭等は命に関わる症状ではないとは理解できますが、やはりどうしても健康的には見えません。もちろん、生物学的に個人差があるのは自然なことでしょうから、これらは受け入れるしかないのでしょうか。
男性型脱毛症に対してフィナステリドやデュタステリドの5α還元酵素阻害薬(5ARI)を服用されてる方が多いようですが、これらの薬剤は元々が前立腺肥大症に対するもので、その目的は前立腺の縮小です。そこで質問なのですが、男性型脱毛症に対して用いるとき、患者さん(特に若年層)は前立腺に問題がないケースがほとんどだと思いますが、その場合、前立腺や精巣等が縮小してしまい機能不全に陥るというリスクはないのでしょうか。また、そうなった場合服用を中止すればそれらは回復するものでしょうか。
質問を受けて論文を調べてみました。その結果は、本日の記事、2013.12.11「☆ポストフィナステリド症候群」を参照してください。
フィナステリド(プロペシア)もデュタステリド(アボルブ)も5α-還元酵素阻害薬(5ARI)で、テストステロン(T)をジヒドロテストステロン(DHT)に変換する酵素をブロックしますが、このブロックの効力は想像以上に大きく、しかも長期に渡り持続するようです。投与中も投与中止後も、勃起障害、性欲減退、オルガズム低下、性機能低下、自尊心低下、QOL低下、親しい人間関係の維持の低下、抑うつ、憂うつ、自殺企図、酒に弱くなるなどが持続します。現在のところ、どのような方がPFSになるのかについては明らかではありませんので、5ARIを使用する際にはそれなりの覚悟が必要です。
5ARI以外では、2013.8.18「☆プロペシア以外の育毛剤やハーブの影響は?」に記載したように、「ノコギリヤシ」が最も影響力が少ないですが、それでも精子の状態は悪くなります。育毛と性機能は両立せず、「反対のベクトル」を向いているものとお考えください。
また、5ARI内服により前立腺が縮小すると精液量が減少しますので、投薬中は精液の量が少なくなります。これが持続するかについて記した論文はまだありません。